人々にとって“世界”とはどこまでなのか

 未婚の男が増えて、息子が男手一つで両親の介護を行わなければならない、という家庭が増えているらしい、ということを前の記事で書いたが、そのことを知ったのは、そのような新聞の記事を見かけたからだった。
 そこでもう一つショッキングなニュースを知った。

 某所で、56歳の無職の男が、父親を窒息死させて殺人容疑で逮捕された。男は、寝たきりの父の介護に疲れたのだ、という。
 そこで、男の家庭環境の検証が行われたのだが、なんとこの男、20代初めに就職しすぐに退職した後、今日に至るまでの30年間、ずっと引きこもりを続けていたのだという。
 引きこもり、と言っても、現在イメージされるような、暗い部屋にこもりきって、という状況とはまた違うようなのだが、世間の目を気にして30年間家を出ることなく、仕事に就くこともなければ結婚することもなく、出会う人間は両親だけ、という生活を続けていたのだ。

 びっくりしたのは2つのことで、まず引きこもりという現象自体が既に30年以上前から存在していた、ということと、30年間引きこもり続けても生きてこられる環境が存在していた、ということだ。
 現在自室に引きこもっている少年たちも、いつかは大人になり、家庭環境の変化(それは家族の資産の枯渇であったり、両親の死別であったり)により、嫌が応にも社会に飛び出さざるを得なくなる。
 その“飛び出す瞬間”に、問題や事件が多発するにしても、生涯を引きこもり続けることなど不可能だ、という前提が社会には存在している思っていたし、事実私もそのように考えていた。

 だが、現実はもっと深刻なのだ、と考えを改めなくてはいけないのかもしれない。

 30年間家を一歩も出ることなく、そして自分の親が寝たきりとなり、消えようとするその瞬間ですら、家を飛び出すこともできず、果ては自らの手で、30年間「引きこもらせてくれた」両親を手にかけなければならなくなる。もう自身の髪にも白が目立ち、かつてその背中を見つめていた両親の歳に、自身がなろうとしていた、そんな時に。
 
 なんという人生だろう。

 その男にとって、家こそが世界のすべてだった。
 砂漠化に家を奪われる人、戦争で故郷を追われる人、住処の木々を焼き払われ涙にくれる人、そんな世界の人々はおろか、今日も遅くまで残業し電車の中で眠りこける父親、子供が塾から帰ってくるまで晩御飯を待っていようと時計を見つめる母親、明日朝学校に行ったらまず週末の部活の大会について友達を話さなければいけないだろうな、と思索に耽る少年、コンビニの残飯をいただこうといつも同じ時間に店前に姿を見せる猫、仮面ライダーのまねをして駅前に置いてあったフリーペーバーを棒状にして振り回す子供、そんな日常の何気ない人々の姿さえ

 彼にとっては、世界の外側の出来事だったのだ。

 
 そう考えると、地球温暖化と言って、現在の世界の惨状を“自分の世界の内側”だと捉えて、考えることができる人が、この国にはどれほどいるのだろう。

 いや、どれほど“いられる”のだろう。可能性の問題だ。

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Re:人々にとって“世界”とはどこまでなのか
なんかもう世の中ひきこもって暮らす人と、
毎晩12時まで残業して会社の中で暮らしてるような人に二極化してますね。
どっちも環境問題なんて考えられないわけですが。
Re:人々にとって“世界”とはどこまでなのか
>>カサゴさん

 以前このブログで、「今の高校生にとって、マクドナルドが帰るべき家になっていて、本来の家は、ただ寝るためにある場所、という認識になっている」ということを書いたことがあって(どこ記事だったかは忘れてしまいました(汗))、そのような感覚で、「家」や「家族」という存在が透明化しつつある傾向があると思います。
 家族の重要性が薄れることはそうそうにはないと思いますが、家という「場」はあってもなくてもいい、と考える人は、意外と多いと思います。

 カサゴさんの指摘するとおり、「家」と「会社」のみが世界のすべてであって、その間に存在する、いわゆる「社会」が存在しない、という意味での「社会性のない人」が、もう何十年も前から増殖し続けていて、そういう意味で、社会がないから環境問題という「社会問題」が考えられない、という人はかなりいるのではないか、と思います。
 エコロジーに興味がない、というよりも、エコロジーのフィールドである「社会」が存在していない、という人が大勢いる、というのが、正確なのかもしれません。
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