2007年06月21日
Salvation
坂本龍一『DISCORD』に、ふと手を伸ばす。 『DISCORD』は、坂本龍一オーケストラツアー“F”のために書き下ろされた楽曲「untitled 01」を収録したシングル作品で、「Grief(悲哀)」「Anger(憎悪)」「Prayer(祈祷)」「Salvation(救済)」の4楽章から成るこの組曲は、後の坂本龍一オペラ“LIFE”の原型である、とされている。 その最終楽章「Salvation」は、様々な人たちが「救済」について語るインタビュー映像からスタートする。 ほとんどが英語なので、何を言っているのかが分からないのがもどかしいのだが、そんな中、一人だけ日本人がインタビューに答えている。伝え聞くところによると小説家の埴谷雄高らしいのだが、ネットで検索しても詳細が出てこないので、実際のところはいまだ分からずにいる。 その彼は「救済」について、こう語っている。 「・・・救済、Salvationで思い浮かぶのは、最後の審判。 でも、最後の審判はない、と・・・世界は不条理のままで終わると思うんです。 では救い、とは何なのか、というと・・・記憶すること、なんですね。最も救われない人たちを。 私たち人類の義務は何かって言うと・・・世界史を運んでいくことなんです。」 ふと、私の中には、最後の人類に、世界史の記録を渡す人の光景が思い浮かんだ。 ・・・ ポジティブフィードバックにより海は荒れ、その水は茶色く濁り、黄砂により景色は霞む。そんな世界。マスクをつけた人間が一人、絶壁の崖際に佇み、静かに海を眺めている。もうこの世界は、環境破壊によって空気中に有害物質が浮遊し、マスクなしでは人類は生存できなくなったのだ。 後ろから、またもマスクをつけた誰かが、大きな地図帳のような本を抱えて近づいてくる。どちらも顔はマスクで覆われているため、男なのか女なのか、判別がつかない。 海から視線を外し、振り返る誰か。マスク越しからはその表情は窺い知ることができないが、そのまなざしには、どこか温かいものが感じられるようだった。 本を抱えた誰かが、その誰かの前にひざまづいた。そして、抱えたいた本を両手でゆっくりと差し出した。顔はうなだれたまま、決して目を合わせようとはしない。 誰かは、その本を両手でしっかりと受け取ると、そのページをゆっくりと開いた。 そこに記されていたのは、戦争により故郷を失った遺児の姿や、食料もなくやせ細った赤ん坊の泣き顔、放射能に犯されただれた顔の女や、森林を伐採し、自らの行いを悔いるように目をつぶる男の姿。 表紙には、書き殴ったかのような稚拙な文字で「Salvetion」と記されていた。そう、これは、これまで救うことのできなかった人々や、人類の愚行を記した、世界史の記録。 「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」ひざまづいたまま、嗚咽するように声を絞り出す誰か。しかし、その声は、マスクに遮られ、決して届くことはない。 本を受け取った誰かは、優しいまなざしを濁らせることなく、ひざまづく者を見つめていた。 それは傍から見れば、まるで、聖母と、懺悔する人類そのものの姿のようであった。 こんな終末を、私たちは見ることになるのだろうか。「Salvation」の静かな響きを聞きながら、涙が流れそうになるのを、私はただ、じっとこらえることしかできなかった。
- posted by life-of-eco |
- 09:34 |
- コメント(0) |
- トラックバック(0)
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL
http://www.econakoto.net/life-of-eco/tb_ping/8


