未来を取るか今を取るか

 田中優さんの話を伺って一つだけ気になったことを。

 田中さんの話では、環境破壊の悪循環が復興可能な範疇を超えてしまう、いわゆる「ポジティブフィードバック」が始まるのが、最悪の場合今から10年後、ということだった。その10年の間に根本的な対策を取らなければ、破壊の雪玉は転がり始め、どんどん巨大化し人間の手で抑えることは不可能となる。
 そして、雪玉の崩壊、つまり人類滅亡は100年後~200年後になる、と。

 問題なのは、ポジティブフィードバックが始まるのが10年後だったとして、実際の人類滅亡までには、90年のタイムラグがある、ということだ。
 つまり、「地球はもう再生不可能です」という宣言が出てから、実際の地球の崩壊までに猶予時間がある、ということだ。
 
 田中優さん本人もそうらしいが、実際今現在環境問題に携わっている人たちの根本的な「動機」は、今の自分たちの世界を憂慮する、ということ以上に、「次の世代、自分たちの子供たちの世代にきれいな地球を残したい」ということに比重が置かれていると思う。
 環境問題に携わる人たちが「次の世代」に比重を置いている、ということの裏返しとして、環境問題に批判的な人たちは「今の自分の生活」に比重を置いていると思う。
 
 私が問題だ、と思うのは、ポジティブフィードバックから実際の滅亡までにタイムラグがある、ということが事実なのだとすれば、じゃあそのタイムラグの期間に環境問題を何とかしよう、と思う人間よりも、そのタイムラグの間に「逃げ切り」を図ろうとする人間のほうが多くなるのではないか、ということだ。
 以前にも、今や先進国のすべての人間が「先進国であるという既得権益を守ろうと必死になっている」という記事を書いたが、今の資本主義的精神構造の中では、「崩壊する前に何とかしよう」と考える人より、「崩壊するならツケは次の世代に回してしまおう」と考える人のほうが多い。
 つまりポジティブフィードバックが始まることで、意図的にツケを次の世代に払わせようとする動きが加速化するのではないか、と思うのだ。

 だからこそ、実際にポジティブフィードバックが始まる前に環境破壊を食い止める、ということ以上に、「意識的にツケを次の世代に払わせようとする」人々精神構造を何とか変えていかなければならない、と思うのだが、田中さんの思想の中に、そういった人々の精神構造の問題は勘定に含まれていなかったように思う。
 というよりも、環境破壊は「精神構造」の問題だ、という観点で理論展開している人がまだ少ないのだ。
 そういった人が、田中さんの実践理論と絡ませて多角的に環境問題を論じられるようになれば、もっと話も飛躍するだろうに、という印象を持った。