ささやかな針

 『HUNTER×HUNTER』という、いろいろな意味で有名なマンガがあって、その主人公の一人に、キルアと言う、クールでちょっとかっこいい奴がいる。

 キルアは卓越した戦闘センスと能力を持ちながら、「自分が不利な状況にある」と判断すると、恐怖に体が支配され、逃げることばかりを考えてしまう、という本能的な癖を持っていた。
 あるエピソードで、キルアが絶望的な状況に追い込まれ、それでも逃げてはいけない、と自分に必死になって言い聞かせるシーンが出てくる。
 逃げてはいけない、でも逃げたいという本能に逆らえない、真の極限状態にまで追い込まれたとき、キルアは自分の髪の毛にあるものが刺さっていることに気づく。
 それはキルアのお母さんが刺した、おまじないの針だった。息子を危険な目に合わせたくない、その一心で息子が危険な状況に陥った時、「逃げ出したくなるように」、針によって脳の神経を操作していたのだ。

 そう、いつもキルアが逃げ出したい、と思っていたのは、本能などではなく、母親が息子を思う、親心だったのだ。
 細かいディティールはおそらく間違っていると思うが、おおまかにこんな話だった、と思う。
 

 何も信じられなくなって、しばらく何も考えられなかった。
 『HUNTER×HUNTER』のエピソードを思い出したのは、きっと私の頭にも、針が刺さったのだな、と思ったからだ。針が刺された心当たりはあるが、ここはそういうことを糾弾する場ではないので、割愛する。
 
 今日になって、針が抜けた。
 きっかけは、元TBSアナウンサーの川田亜子さんが自殺した、というニュースを見たことだった。
 川田さんは、自身のブログで、以前から不安定な精神状態や、体調の不良を吐露していて、心配する声が、少し前から芸能ニュースなどでも流れていた矢先だった。
 結局川田さんは、最悪の選択を取らざるを得なかった。それは、「心配だ」「かわいそう」「大丈夫?」「無理しなくていいんだよ」という声が何百何千何万と囁かれる中で、最後まで川田さんの本当の思いを受け止めてあげられる人は、ついに現れなかった、ということだ。
 
 人は孤独だ。どんなに恵まれ、どんなに幾多の人々に囲まれ、どんなに何不自由なかった、としても。
 でも死んではいけないのだ。それは本当は人は孤独ではないから、ではなく、どんなに恵まれていても、最後には人は孤独だから。

 一人でも生きよう。そう思ったら、信じる・信じないなど、些細なことなのだと、思い知られた。


 たぶん今までのようなブログは書けないだろう。
 それでも、復活したいと思います。また、よろしくお願いします。